「アイスコーヒーで」

私はそういってカウンターに並んだ。

立川駅近くのドトールは人でごった返し、

ろくに集中して読書できるような環境ではなかった。


翌日、調布の駅前にある珈琲館へ行った。

窮屈な階段を上り、扉を開けお店にはいる。

派手なショルダーバッグを肩にかけた女とよくいるその辺の男が浮わつきながら会計しているのを横目に順番を待った。

「店内ご利用ですか。」

私は頷いた。

「空いてる席をご利用ください。」

自由に座れるのはカフェの良いところだ。

朝9時であるのに数十席あるうちの6割は埋められ、なんと暇している人の多い街だろうと思った。

席に着き、注文を試みた。

スマートフォンでQRコードを読み取り、至って平凡なコーンのサンドイッチセットと炭火コーヒーを注文した。


三体Ⅱの下巻は三体Ⅰや三体Ⅱの上巻と構成を同じくして、様々なバックグラウンドを持つ登場人物を配置することで、未知の生命体の去来が与える社会的な影響を物語っていた。


テーブルが低く、足が組めないことに若干の苛立ちを覚える。姿勢の悪さは私の悪習である。気付いたときには背筋の右側だけ筋肉痛になるなど、誰も味合わないであろう痛みに耐えていることがある。暫く体勢を変えながら読書に勤しむ。


13時の美容院まで私はそこで本を読んだ。



複雑な思いを抱えている。そんな悩みを持つとき、だいたい問題はシンプルかもしれない。長い読書を終えて、ふと我に返ると満足していない自分がいた。不思議に思い、悩み始めた。これは複雑な思いなのかもしれないと。しかし、少し考えて分かったことは、ただ思考が働いていなかったからだということに気付いた。


読書をしているとたまに思考することを忘れているときがある。少しの疲れからだろうか。今日は朝5時から昼の15時まで読書しているので、かれこれ10時間は紙の上の黒いインクと向き合っていたことになる。普通の人には考えられない時間だろうか。人と接することに若干の喜びを感じて生活する人々とは相容れない考え方だろうか。


しかし、こうして思考を巡らせているとただ疲れていた訳ではないことに気付いてくる。単純に本の世界にのめり込み味わっていたのかもしれない。そう考えるとふと体が軽くなったような気がする。何事もきっとそうだ。悪いほうに考えるから悪いほうへ行くのだ。車の運転と同じだ。小学生の列に突っ込んでいくのは、そちらを注視するあまりに引き寄せられ、事故が起きやすいという。


今日はTULLY'S COFFEEに来ていた。うっすら灰色に覆われた空に一抹の不安を抱きながら家を出で、いつものように自己の社会性低さを反省しつつ来店した。今日こそは前から興味を持っていたパスタを食べてみたいと思いながらメニューを見る。いくつかSold outとシールが張られていたが、まだ2品ほど残っており、迷わず一番上のメニューを頼んだ。レモンクリームパスタの味は名前そのままで自分でも作れそうな気がした。そしてやはりここのアイスコーヒーは当たりだ。